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ダンジョンの中にある住宅街に『リンデール地区』という文字を発見した俺たちは、『もしかしたら新たにできたダンジョン同士は内部でつながっているのではないか』という予想を立てた。
ただ、これはあくまで仮説の段階だし、イデア様がなんとなくで名前を付けておいたという可能性も十分にある。
だが新しくイデア様が作ったダンジョンはこれまでのダンジョンと違う仕様であり、もう一つの世界といっても過言ではないような内部になっているのだから、十分に可能性はあると思うのだ。
この件に関しては、あとから『なんでそんな大事なことを言わなかったんだ!』とレグルスさんに怒られないためにしっかり報告しておいた。いくつになっても叱責されるというのは嫌なものである。
「――という感じの一日だったよ。セラたちは……うん、随分頑張ったみたいだな」
顔を見たらわかる。
セラ、フェノン、シリー、俺の四人でダイニングテーブルを囲んで報告会をしていたのだけど、三人とも表情から疲労がにじみ出ている。徹夜をしたわけでもないのに、今にもふらふらと倒れてしまいそうな雰囲気だった。
「きつかったら寝ていてもいいんだけど」
俺がそう言うと、セラが手のひらをこちらに向けて待ったをかけてくる。そして彼女はゆっくりと首を振った。
「その必要はない。私は今、この空間、この空気、そしてエスアールの声が癒しになっている。幼少の時に聞いた子守歌を思い出したぞ」
子守歌じゃなくて報告なんですけど。やっぱり眠いんじゃないか。
聞いてみたところ、予想通り彼女たち三人は朝から晩までずっとSランクダンジョンでノアにしごかれていたらしい。
今回は普通に死んでしまえるダンジョンだからノアもそこまで無理な試練は与えなかったようだが、戦っている本人たちも『死んだら終わり』とわかっているため、その分精神的な疲労もすさまじかったらしい。あとは、上級ポーションはそこそこの数使うことになってしまったようだ。
別にストックは大量にあるからいいけど、痛みとか恐怖とかで心がきつそうだよなぁ。
「フェノンとシリーは大丈夫か?」
セラはとりあえず大丈夫そうだと判断し、他の二人に話を振ってみる。
「はい! 私も問題ありません! ノアさんの指導は厳しいですけど、戦い方とか、彼女はすごくたくさんのことを知っていますので、自分がどんどん強くなっていくのを感じて楽しくもあるんです!」
「私もノアさんに弓を教えてもらいましたが、あの方はなんでもできますよね。も、もちろんエスアールさんのほうがすごいですよ! あれ、でも元神様よりすごいって、エスアールさんって本当にすごいんですね」
フェノンとシリーの二人も、疲労は滲んでいるものの、ある種の達成感を覚えているような感じだった。ノアはテンペストでの俺たちの戦いをずっと見てきただろうから、それだけ知識も豊富なのだろう
。
知識だけでどうにかできないのが、あのゲームの面白いところではあるが。
「それで、ノアのやつはどこに行ってるんだ?」
「部屋で一足先に寝ているぞ。『今日はお邪魔虫になりそうだから先に寝てるね』と言っていた」
「別にお邪魔虫ってわけじゃないだろうに」
あいつはあいつで、俺たちのために行動してくれているんだから誰も恨み言は言わないだろう。セラたちからも、感謝の言葉はしっかりと伝えているらしいし。
今度顔を合わせたら俺からも『セラたちに指導してくれてありがとう』と言っておくことにしよう。
「そういう意味のお邪魔虫だとは思っていませんでした」
俺の寝室に、フェノンとセラ、それからシリーが現れた。
ここリンデールにあるパーティハウスでは、レーナス近くに建てた家と違って各自寝室は別々であり、一人部屋だ。
それでも部屋は広いし、ベッドも五・六人ぐらい一緒に寝ても大丈夫そうなぐらいの代物が各部屋に設置されてある。こういうところで金をつかって経済を回さないといけないんですよ。決して他意はありません。なにしろいくら散財してもお金が増え続ける一方なんですもん。
いやしかし……どうしてこうなった?
「べ、別にシリーも私たちと一緒に夜――うぐっ――と、ともかく、今日はみんなで一緒に寝ようという話になったのだ! 本当にただそれだけだからな!」
「今日は色々と大変でしたから、私とセラはエスアールさんと一緒にいたいと思ったんですけど、それだとシリーが一人になってしまうから可哀想で」
「すみません……お邪魔かとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
おそらく呆けた表情を浮かべてしまっている俺に、セラ、フェノン、シリーがそれぞれ声を掛けてくる。ハッと現実に意識を引き戻して、彼女たちの言葉を脳で処理していく。
彼女たちの言葉から推測するに、今日ノアによって厳しい指導を受けて精神的にきついから、パーティハウスではあるが、セラもフェノンも俺と一緒に寝たいと。
そしてそうなると、同じようにきつい想いをしたシリーだけが一人ぼっちになってしまう。それはセラとフェノン的にはNGだったのだろう。
もちろん、俺としてもここで心細く思っているらしいシリーを一人にするのは可哀想だと思う。でもその解決策って、セラたちが三人で寝ればそれでいいんじゃないか?
……うん、そこまで俺も朴念仁ではない。セラとフェノンはもちろん、シリーからも異性としての好意は感じているし。そしてそれをセラとフェノンが認めていることもだいたいわかっている。
「……とりあえず、みんなから今日の成果とかを色々教えてもらおうかな。さっきの話ではざっくりとしたことしか聞けなかったし、俺からアドバイスできることがあるかもしれないから」
愛だの恋だのが絡んでしまうと、俺も色々と意識してしまうから戦闘とかダンジョンの話をすることにした。こっちの話題なら俺も前のめりで話をできるし、彼女たちの役にも立てる。
「それと、例の『他のダンジョンと繋がっているのか』を確かめるために、近々ダンジョン内で泊まり込みをするかもしれないから、その時は一緒に行こう」
ベッドに腰掛けた俺がそう言うと、三人はそれぞれ嬉しそうに肯定の返事をしてくれる。
うんうん、いい流れだ。別にそういう大人のアレコレが苦手というわけじゃないけど、シリーとは結婚しているわけじゃないからな。これが普通だ。ただ一緒の部屋の一緒のベッドで寝るだけなのだ。
まぁ結局、その後は俺を代わる代わる膝枕するというよくわからないゲームをすることになってしまったけど。疲れてるのキミたちじゃないの? なんで俺が膝枕されて、キミたちが回復するんだ。
――明日の朝、俺はいったいどうなってしまっているんだろうか。