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セラとフェノンとシリーの三人が死に体になりながらも奮闘している理由は、早く俺やクレセントたちの足手まといにならないようにしたいとのことだった。
別に彼女たちに付きあってのんびりするのも構わない――と言ってみたのだけど、どうやら今の俺は傍から見ればウキウキしているらしく、それを妨げることはしたくないとのことだった。
「まぁどうせ毎日家で会えるんだ。私たちは私たちで強くなるさ。それに、あのダンジョンでの敗北から二十四時間たてばまた戦いが始まる――それまでしっかり英気を養っておくことにする」
セラはぐっと握りこぶしに力を込めながら笑って見せた。
フェノンとシリーの二人も、「レベルがどんどん上がりますから、すぐに追いつけそうですよ」とか「距離が縮まってるって実感がありますので、頑張れます」とにこやかに笑っていた。
ただ、
「え? 僕、24時間後とか言ってないよね? 強くなりたいんでしょ? ほら、もう朝の九時を過ぎてるんだから、早く行くよ。――どこってそりゃ、Sランクダンジョンに決まってるでしょ。まさかお兄ちゃんと一緒に戦いたいなんて言ってる人が、Aランクに行くとか言わないよね?」
フラリと現れたノアがそう言うと、三人とも顔を引きつらせていたが。
だけど、セラもフェノンもシリーも誰も嫌がりはしていないようだった。体力的には苦しいが、精神は負けていないようだ。
Sランクダンジョンと、イデア様が用意したダンジョンでレベル上げをしていれば、二次職と派生二次職のステータスボーナスぐらいはすぐに取れるだろうな。
そしてその状態で三次職のレベル上げをしてくれたら、もう十分に戦えるレベルになっているだろう。
俺は彼女たちが息抜きできるように、ダンジョン内にある家を案内できるよう色々調査しておくことにしようかな。どちらにせよ、俺の興味はあの住居にあるので調べることになるんだけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
洞窟でコインを集めた日の翌日の昼。
クレセントと翡翠が家にやってきたので、そのまま一緒にイデア様のダンジョンへ向かった。
「今日は家を買うんっスよね? どれがいいとか決めてるんっスか?」
「たしか全部で四十九棟ありましたよね。そういえば、価格の違いとかあるんでしょうか?」
「それも確認しないとな。前はざっと見ただけだったし」
三人でそんな風に話しながら、住宅地がある場所へ向かって歩を進める。家にたどり着くまでに魔物と数回遭遇したが、ボスモンスターではなかったのでただ倒しただけ。最初のような興奮はなく、作業的に倒すだけだった。
Sランクのモブよりは強いけど、俺たちにとっては脅威になりえない。Sランクのボスもこのダンジョンのボスも、俺たち三人はソロで倒せちゃうからなぁ。
「さて……じゃあひとまず手分けして価格を調査しようか」
ざっと見た感じ、住居の大きさはどれも一軒家サイズで、日本で見る一般家庭の物よりは少し大きいぐらいだ。しかし豪邸というほど大きすぎることもなく、たぶん四~五名が不自由なく暮らせるって感じのものだと思う。
もしかしたらイデア様は、パーティで使うことを想定して作ったのかもしれないな。
「じゃあ私は向こうの端から見ていくっス!」
「それじゃあ私はこっちからにしようかな?」
十棟も確認すれば済む話なのかもしれないけど、やはりしっかりと確認しておかないと気が済まないんですよね。
十中八九全ての家は五コインで購入できるんだろうけど、断定できるわけじゃないんだよな。もしかしたら家によっては特殊機能があって、自動回復とかついているかもしれないし。夢が広がるなぁ!
「……まぁ何もないよな」
「三軒目ぐらいで感づいてたっスよ」
四十九軒ひとつひとつウィンドウをだして確認してみたものの、結局全て同一価格だった。特殊機能がある雰囲気なんて微塵も感じられないし、少々がっかりである。
とはいえ、この住宅地が無事に存在しているということは、ダンジョンの入り口付近と同じく魔物が寄り付かないエリアになっているのだろう。宿泊場所が確保できるというだけでも、十分意味はある。
「二人はどこか気に入った家はあったか? 俺は特にこれといって気に入ったところはなかったんだけど」
「んー、私も無いっスね。自分の好みはレーナスの近くに建てた家にぶち込んだっスから」
「右に同じです」
「じゃあ中心の家をとっちゃうか。角にある家も魅力的だけど、万が一魔物が来たときに一番襲われにくい場所だろうし」
「王者らしくていいじゃないっスか! ほら、王都の王城とかもだいたい中心部にあるっスから」
「別にそんなつもりはないんだけど……というか王ってガラじゃないだろ俺は」
「でもSRさんは覇王ですよ?」
それはただの職業ですやん。というかそれを言ったら今の翡翠の職業も魔王だから同じ王なのでは?
まぁそんなことはいい。二人にはからかわれた気がしなくもないが、さっさとコインを支払って家を買ってしまうことにしよう。
七×七に配置された住居の中心。その家は外壁を紺色に塗装された家だった。この世界にある家と比べると、少しばかり現代に近い雰囲気を感じた。
家に近づくと青白いウィンドウが現れる。
以前は価格しか表示されていなかったのだが、いまは購入するか否かの選択肢も出ている状態だ。ちなみに、コインは俺がまとめて持っている状態だから、選択肢が出てきたのは俺だけのようだった。
「じゃあ、購入~」
別に一世一代の買い物をするわけではないので、支払いも気楽だ。また欲しくなったらコインを集めればいいだけだし。
というか、本音を言わせてもらえば全部の家を買ってしまいたい。
だけどのちのち誰かがこのダンジョンにやってきた時のことを考えると、申し訳なくてそれはできないんだよなぁ。もしかしたら、購入制限とかもあったりするのだろうか?
「私が一番っスぅううううう――ふぎゃっ!?」
俺が購入するやいなや家に突撃したクレセントが、見えない壁に激突していた。そして俺の前には、『クレセントの入室を許可しますか?』というウィンドウが現れている。
涙目のクレセントがこちらに縋るような視線を向けてきていたので、俺は嘆息しながら入室許可をタッチしたのだった。