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クレセントと翡翠の新居が完成したということで、彼女たちの家で新築お祝いのパーティを行うことになった。参加者はASRのメンバー、迅雷の軌跡の三人や、我が家で働いている使用人たち――身内だけでの気軽なパーティだ。
彼女たちの家の庭では着々と準備が進んでおり、白のテーブルクロスがかかった丸いテーブルがいくつか設置され、その中央には綺麗な花瓶が飾られている。
ベンチが少し離れたところにあるけれど、基本的には立食パーティの形式になるようだ。
いちおう、いくつかのテーブルには椅子が用意されていて、そこで食べることも可能らしい。みんな好きなほうでどうぞって感じなんだろうな。
新居のお披露目っていうよりも、どちらかというと親睦を深めるという意味合いのほうが強い感じかな。クレセントも翡翠も、この世界の人と打ち解け初めてはいるが、まだ日が浅いことはたしかだし。
テーブルの上に軽食が並べられ、全員に飲み物がいきわたったところで、主催者の二人が突貫で用意した木の台に上る。
ちょっと緊張してるっぽいな。俺も逆の立場だったら嫌だわ。戦っているときに観戦されるのなら別にいいが、こういう視線の浴び方は辛い。
「えー、みなさん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
クレセントがぎこちなくそう言うと、シンが「固いぞーっ!」とヤジを飛ばした。すかさず迅雷の女性陣二人が蹴りとこぶしをシンに叩き込む。痛そう。
まぁでも、こういうことをみんなが笑ってみていられるぐらい、軽い空気なのだ。シンが『固いぞ』と言いたくなった気持ちも痛いほどわかる。もっと気楽にやっていいんだぞ。身内しかいない食事会なんだから。
「しょ、しょうがないじゃないっスか! こういうの慣れてないんスよ! ――ほら、姫ちゃんもなんか話してほしいっス!」
「えぇ……ボクも苦手だもん」
「私だってそうなんスけど!? ――あ、うぅ、もう乾杯! 乾杯っス!」
二人のそんなやりとりをみんなで笑って見届けて、パーティが始まった。
みんな思い思いに移動しながら食事を楽しんでいる様子だったので、俺もフラフラと庭をさまよいながらみんなと話すことにした。
まず、シンが一人でいたのでそちらに向かってみることに。
「ライカとスズと一緒じゃないんだな」
「四六時中一緒にいるからな。あいつらはほら、フェノン様のとこに行ってる」
シンの視線が示す場所に目を向けると、そこではフェノン、ライカ、スズ、それからシリーが一緒にテーブルを囲んでいた。シリーはフェノンの後ろに控えており、他の三人は椅子に座っている状態。
「フェノン様のおしとやかさを見習いたいんだとよ。んなもん、探索者には必要ないと思うんだけどな、俺は」
「まぁそこは個人差あるだろ……」
というか、フェノンも俺たちと行動するようになって、そこそこおしとやかさが崩れているような気もするけど……いやもちろん、第一王女としての風格がないとかそういうわけではなく、そう、いい意味で変わった。いい意味で。ここ大事。
「フェノンは綺麗だし、あこがれる気持ちもわかる。はかなげなフェノンも良かったが、やっぱり俺は今の元気で活力のあるフェノンが好きかな」
勇者様――とフェノンが言っていた時のことを思い出す。
自分の命よりも、俺の命を心配してくれたあの時から、俺は少しずつ彼女に惹かれていったのだろう。
楽し気に話す三人を遠目で見守りながらシンに話すと、彼は「おぉ?」と言いながら俺の肩に手をまわしてくる。
「嫁自慢かぁ? シラフで言えるとはたいしたもんだ」
俺の手にもつ果実ジュースに、ワインの入ったグラスを当てながらシンが言う。うっせ。
「シンのほうはどうなんだよ、このまま独身をつらぬくつもりか?」
「……さぁな」
答えづらそうにそう言うと、彼は俺から手を放してワインを飲む。
おやおや? てっきりシンなら、『今はそういうことに興味が無い』みたいな感じでバッサリといくと思っていたんだが、濁したぞ? これはもしや?
「どっちだ? ライカ? スズ? それとも別の誰か?」
気になりますねぇ。もしかしたらどちらからにアプローチされたのか?
「あのなぁ……俺は別に何も言ってないぞ」
「なるほど、両方か」
「何も言ってないって言ってるだろうが!?」
酒のせいか、はたまた別の何かの要因か、シンは顔を赤くして叫ぶ。だけど、声は小さめだった。誰かに聞かれないようにしてるんだろうなぁ……。ニヤニヤしてしまうぜ。
俺のいやらしい笑みをどう受け取ったのか、彼はため息を吐いて俺にジト目を向ける。
「……俺たちはガキの頃からの付き合いだからな。いまさら愛だの恋だの語るような関係じゃないんだよ」
「――って、自分に言い聞かせてるだけじゃないのか? あの二人はどうなんだよ」
「……さぁな」
否定しないということは、たぶんお互いにまんざらじゃないって感じなんだろうなぁ。
ノアに心の声を読んでもらえたらなんとかなりそうなもんだけど、さすがにそれはレギュレーション違反だろう。四面楚歌になりかねない。俺はあの蹴りとこぶしを食らいたくない。
あの二人にも、ちょっと探りを入れてみるとするか。