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翌日。
クレセントたちを街に連れていく次いでにセラとデートのようなことをしたわけだけど、そうなると不平等になる者がいる。まぁフェノンだ。
セラと同時期に結婚したフェノンだが、セラと比較すると一緒に過ごした時間は少し短い。二人きりとかそう言う意味ではなくて、単純に彼女は王城に戻ったりすることがあるので、そこで時間の差が生まれてしまう。
「本日は私たちの番ですね」
とはいえ、俺もフェノンも一緒に過ごす時間をないがしろにしているわけではない。
昨日セラと出かける前に、すでに彼女とも約束を取り付けていた。
ただ、今日は家の近くの丘でご飯を食べようというものであり、シリーも一緒にいる。
クレセントたちは二人でダンジョンに行くようだし、セラは久方ぶりに兄のレイさんと稽古。ノアは家でごろごろしているようだ。
「あの……私も一緒でよろしいのですか?」
「私が良いといったらいいのよ」
「ははは……さすが王女様だな」
「む……エスアールさん、からかってます?」
ムスッとしたフェノンに対しては、笑い声を返しておいた。さらにムスッとしてしまったけれど、頭を軽く撫でるとすぐに笑顔になった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この家自体、小高い丘の上に建てられているので、そもそも景色が良い。
ただ、家や庭から見る景色と、何も遮るものがない場所で見る景色とでは、解放感が段違いだ。
というわけで、家から出て徒歩二百メートルほど――直径二メートルはありそうな大木の木の根元にやってきて、俺たちはそこに腰を下ろした。日陰のおかげで、緑の芝生に手をつくと、ほんのり冷たさが伝わってくる。
ただ、フェノンたちもいるし、しっかりとレジャーシート代わりの敷物を持ってきておいた。というか、俺が準備するまでもなく全員が持ってきていたけれど。
シリーが持ってきてくれたバスケットを中心に、腰を下ろす。
「今日は天気が良いですね。雨が降らなくて良かったです」
シリーがパカリとバスケットの蓋を開けながら言う。中身はサンドイッチとカットされた果物が入っていた。
「だな。日差しの下だとちょっと暑いけど、木陰だとちょうどいい」
「私も子供のころはセラとたまにこういった感じで食事をしていましたよ。護衛が付いたり、王城の庭だったりですが。あの頃は――」
フェノンが話す昔話を聞きながら、サンドイッチを食べる。
たまにフェノンがシリーにツッコまれたりしながら、和気藹々とした雰囲気のお昼を過ごした。フェノンとシリーの主従関係も、機能自体はしているけど、いい意味でくだけているよな。ダンジョンに行き出したあたりから、そんな傾向は現れていたけど。
いや、それ以前からもきっと、話しやすい関係だったんだろうな。
「次はレゼル王国に行くんですよね?」
食後の紅茶を飲みながらまったりしていると、話題は過去から未来のことに変わった。
「おう、そのつもりだな。クレセントと翡翠が落ち着くころになったら出ようと思ってるけど、二人はどう思う?」
「私はそれで構いません」
フェノンがまず返事をして、それに続くようにシリーも了承の返事をくれる。セラもたぶん了承してくれるだろうから、ほぼ確定だな。どうせノアはいつだろうとくっ付いてくるだろうし。
「ヴィンゼット姉弟は元気にしているかなぁ」
次に行く国としてレゼルを選んだのは、以前顔を合わせた二人がいるからだ。
レゼル王国代表パーティのアーノルド=ヴィンゼット、そしてジル=ヴィンゼット。
二人とも剣や拳を交えた仲だし、せっかくレゼルに行くのだから、武闘大会に参加した二人以外のメンバーとも戦ってみたい。
しかし、アーノルドといえば……、
「ノアのこと気に入っていたよなぁ……」
まごうことなきロリコンだった。
ノアのことを幸せにしてみせるとか、俺のことを『義兄さん』と呼び始めたりだとか……まぁいい奴であることには違いないんだけどな。
「つまり、お兄ちゃんは僕がアーノルドにとられないか心配だと」
「……そんなこと一言も言っていないし、急にこないでほしいし、あと勝手に人の心を読むんじゃねぇクソガキ!」
いつのまにか現れ、俺の背中にピトリと身体をくっつけてきたノアを振り払い、ジト目を向ける。
ノアのことはまぁ……憎からず思っているけれど、今はそういうことは考えていない。まずはセラとフェノンの幸せを優先だ。
「レゼルにはもちろん僕も行くからね」
「まぁ、お前もいちおうASRの一員だしなぁ」
「なんか不満そうじゃない?」
「そんなことないぞ」
ぶっきらぼうに答えると、なぜかノアはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。
「なーんだ、照れ隠しか」
心を読むなと何度言ったらわかるんだこいつは。