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A-77 お嫁さんだからな!

A-77 お嫁さんだからな!

 

 

 

 

「じゃあよろしくお願いするッス! 勝敗はどちらかが負けを認めたら――って感じでいいッスか?」

「じゃあよろしくお願いするッス! 勝敗はどちらかが負けを認めたら――って感じでいいッスか?」

「それで頼む。あとは、審判のエスアールに判断してもらおう」

「それで頼む。あとは、審判のエスアールに判断してもらおう」

 

俺から少し距離をとったところでクレセントさんとシンが向かい合って話をしている。シンの後ろにはパーティメンバーの二人とセラもいるが、会話はシンに任せているようだ。

俺から少し距離をとったところでクレセントさんとシンが向かい合って話をしている。シンの後ろにはパーティメンバーの二人とセラもいるが、会話はシンに任せているようだ。

というか自然に俺が審判役をすることになったな――まぁ別にそれぐらいやりますけども。どうせ暇だし。

というか自然に俺が審判役をすることになったな――まぁ別にそれぐらいやりますけども。どうせ暇だし。

 

このBランクダンジョンは草原タイプ――もともと障害物があまりないダンジョンなので、お互いに真っ向勝負をせざるを得ないステージだ。つまりは、対人戦とさして変わらない状況であるということ。

このBランクダンジョンは草原タイプ――もともと障害物があまりないダンジョンなので、お互いに真っ向勝負をせざるを得ないステージだ。つまりは、対人戦とさして変わらない状況であるということ。

 

セラが不安げな表情で俺に目を向けていたので、俺は手を振りながら声を張り上げた。

セラが不安げな表情で俺に目を向けていたので、俺は手を振りながら声を張り上げた。

 

「いまやれる全力でやってみな! 俺と戦うつもりで挑むんだぞ!」

「いまやれる全力でやってみな! 俺と戦うつもりで挑むんだぞ!」

 

「絶望しかないんだが!」

「絶望しかないんだが!」

 

俺の言葉に対し、即座にセラが反応する。まぁ負けイベントみたいなものだからしょうがない。

俺の言葉に対し、即座にセラが反応する。まぁ負けイベントみたいなものだからしょうがない。

もしシンたちがクレセントさんに攻撃をあてられるとしたら、開始一分が勝負だろうなぁ。それ以降は全て適応されてしまうだろう――さて、どんな試合になることやら。

もしシンたちがクレセントさんに攻撃をあてられるとしたら、開始一分が勝負だろうなぁ。それ以降は全て適応されてしまうだろう――さて、どんな試合になることやら。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

はじめ――という俺の掛け声を合図に、セラとシンがクレセントさんに向かって突っ込んでいく。愚直に真っ直ぐ特攻するわけではなく、エックス状に斜めから攻めていく形だ。

はじめ――という俺の掛け声を合図に、セラとシンがクレセントさんに向かって突っ込んでいく。愚直に真っ直ぐ特攻するわけではなく、エックス状に斜めから攻めていく形だ。

 

「おー、たしかにSRさんの言う通り、まだステータスは上げてないみたいッスねぇ」

「おー、たしかにSRさんの言う通り、まだステータスは上げてないみたいッスねぇ」

 

そう言いながら彼女は一足で大きく後退――したかと思うと、強く踏み込んで一瞬で彼らの頭上を飛び越えた。そしてライカとスズがいる場所へ脱兎のごとく駆け出す。

そう言いながら彼女は一足で大きく後退――したかと思うと、強く踏み込んで一瞬で彼らの頭上を飛び越えた。そしてライカとスズがいる場所へ脱兎のごとく駆け出す。

 

「さて、お二人はどうするッスか?」

「さて、お二人はどうするッスか?」

 

慌ててこちらに戻ってくるシンたちを気にする様子もなく、一瞬でライカたちの元に訪れたクレセントさんは、動揺する二人に声を掛けた。

慌ててこちらに戻ってくるシンたちを気にする様子もなく、一瞬でライカたちの元に訪れたクレセントさんは、動揺する二人に声を掛けた。

 

「散るわよ!」

「散るわよ!」

 

「了解です!」

「了解です!」

 

クレセントさんに襲う様子はないけれど、すさまじいスピードで突撃してきた彼女を警戒して二人は躊躇いなく散開する。

クレセントさんに襲う様子はないけれど、すさまじいスピードで突撃してきた彼女を警戒して二人は躊躇いなく散開する。

クレセントさんは逃げていく二人を追うことなく、ゆっくりと振り返る。

クレセントさんは逃げていく二人を追うことなく、ゆっくりと振り返る。

 

「ステータス的には間に合わないッスよねぇ。じゃあスピードはなんとなくわかったんで、次は技を見るッスよ」

「ステータス的には間に合わないッスよねぇ。じゃあスピードはなんとなくわかったんで、次は技を見るッスよ」

 

そう言って、彼女はトントンと一定のリズムでその場で跳ねはじめた。そして、ドン――という音とともに、彼女の姿がその場から消える。まぁ正確には消えたわけではなくて、ただ速いだけなのだけども。

そう言って、彼女はトントンと一定のリズムでその場で跳ねはじめた。そして、ドン――という音とともに、彼女の姿がその場から消える。まぁ正確には消えたわけではなくて、ただ速いだけなのだけども。

 

彼女はシンたちとは比較にならないほどのスピードで――敵を翻弄するように左右に大きく動きながら迫っていく。

彼女はシンたちとは比較にならないほどのスピードで――敵を翻弄するように左右に大きく動きながら迫っていく。

 

やはり彼女はステータスを引き継いだだけじゃなくて、装備もそのままらしいな。いつも通り指輪と防具によってAGIをSSSまで上げきっているらしい。そこに剣聖のレベル100で覚える『武の極地』によってAGI二割増しがあるから、そりゃ速いわな。

やはり彼女はステータスを引き継いだだけじゃなくて、装備もそのままらしいな。いつも通り指輪と防具によってAGIをSSSまで上げきっているらしい。そこに剣聖のレベル100で覚える『武の極地』によってAGI二割増しがあるから、そりゃ速いわな。

 

魔王でランキング戦に出ていた俺からすれば、剣聖職でMAXAGIの相手をするのは面倒で仕方がなかった。あいつら速ぇんだもん。まぁその分、火力では俺が上回っていたけれど。

魔王でランキング戦に出ていた俺からすれば、剣聖職でMAXAGIの相手をするのは面倒で仕方がなかった。あいつら速ぇんだもん。まぁその分、火力では俺が上回っていたけれど。

 

素早く動き回るクレセントさんと対峙して、セラたちはどう動いていいのか戸惑っている様子だ。しかし彼女は容赦なくセラへと迫り、横薙ぎの攻撃を加える。

素早く動き回るクレセントさんと対峙して、セラたちはどう動いていいのか戸惑っている様子だ。しかし彼女は容赦なくセラへと迫り、横薙ぎの攻撃を加える。

 

「――ぐっ!?」

「――ぐっ!?」

 

クレセントさんは、剣を振るスピードを少し落としてセラの腹部に攻撃したが、その攻撃はギリギリセラの剣によって受け止められてしまう。

クレセントさんは、剣を振るスピードを少し落としてセラの腹部に攻撃したが、その攻撃はギリギリセラの剣によって受け止められてしまう。

 

だが受け止めたからといって無事で済むわけもなく、彼女は力の差によって軽く飛ばされてしまった。体格的にはセラの方が大きいんだけど、軽々と吹っ飛ばしたな。さすがゲームの世界。

だが受け止めたからといって無事で済むわけもなく、彼女は力の差によって軽く飛ばされてしまった。体格的にはセラの方が大きいんだけど、軽々と吹っ飛ばしたな。さすがゲームの世界。

くるりと回って空中で体勢を整えたセラは、シンの隣に着地。

くるりと回って空中で体勢を整えたセラは、シンの隣に着地。

 

「反応速度はまぁまぁってところッスねぇ。こういう攻撃にはあんまり慣れてない感じッスか?」

「反応速度はまぁまぁってところッスねぇ。こういう攻撃にはあんまり慣れてない感じッスか?」

 

「慣れてないどころかこんなのは初めてだ! 本当に凄まじいな……エスアールの世界の人間は!」

「慣れてないどころかこんなのは初めてだ! 本当に凄まじいな……エスアールの世界の人間は!」

 

「じゃあ初見ってことッスか! それは凄いッスね!」

「じゃあ初見ってことッスか! それは凄いッスね!」

 

「ふふ……わざと受けられるスピードに落としておきながらよくいう」

「ふふ……わざと受けられるスピードに落としておきながらよくいう」

 

「そこまで見えてたッスか!?」

「そこまで見えてたッスか!?」

 

どうやらクレセントさんは、自分の手加減が見破られたことに心から驚いているらしい。

どうやらクレセントさんは、自分の手加減が見破られたことに心から驚いているらしい。

俺も見えてたもんね! 俺だってわかってたもんね!

俺も見えてたもんね! 俺だってわかってたもんね!

心の中でセラに対抗心を燃やしているなか、彼女は褒められたのが嬉しかったのか、胸を張ってどや顔を浮かべていた。

心の中でセラに対抗心を燃やしているなか、彼女は褒められたのが嬉しかったのか、胸を張ってどや顔を浮かべていた。

 

「ふっふっふ――なにせ私はエスアールの弟子であり――お嫁さんだからな!」

「ふっふっふ――なにせ私はエスアールの弟子であり――お嫁さんだからな!」

 

……いったい急に何を言い出すんだこの子は。

……いったい急に何を言い出すんだこの子は。

 

「…………へ? お嫁さん?」

「…………へ? お嫁さん?」

 

突如として嫁ムーブをし始めたセラに、俺もクレセントさんも、そして試合中のシンたちもキョトンとしてしまった。クレセントさんはその表情のままこちらを見てくるが、俺は彼女と目を合わさずに、手で顔を覆って視界を真っ暗にする。

突如として嫁ムーブをし始めたセラに、俺もクレセントさんも、そして試合中のシンたちもキョトンとしてしまった。クレセントさんはその表情のままこちらを見てくるが、俺は彼女と目を合わさずに、手で顔を覆って視界を真っ暗にする。

 

いやせめて紹介の順番を逆にしようぜ……それだと『弟子』よりも『お嫁さん』の方が重要みたいに聞こえるじゃないか。普段ならばそれは嬉しいことなのだけど、現在敵と交戦中であることを考慮するとどう考えても間違っている。

いやせめて紹介の順番を逆にしようぜ……それだと『弟子』よりも『お嫁さん』の方が重要みたいに聞こえるじゃないか。普段ならばそれは嬉しいことなのだけど、現在敵と交戦中であることを考慮するとどう考えても間違っている。

 

まさか審判に精神攻撃が飛んでくるとは思わなかったぞ。

まさか審判に精神攻撃が飛んでくるとは思わなかったぞ。

 

 

 

 


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