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陛下たちとの話は、最終的に『無茶な真似はしないように』と釘を刺される形で終わった。
それはおそらく――というかほぼ確実に、これから大きな実績を上げなければならない俺に向けての言葉だったのだろうけど、もしかしたらフェノンに対してのものだったという可能性もある。
だってこの子、先日は『いざとなったら国外逃亡』とか言っていたし。父親である陛下は彼女の性格をよく知っていそうだしなぁ。
王城を出た俺たちは、どこかに寄り道することなく、真っ直ぐに目的地へと向かった。目的地というのは言うまでもなく、新居のことである。
そう――新居である!
新たな住処が増えるというのは楽しみなのだが、使用人さんたちとの出会いはやはり緊張する。良い人たちであることを願うばかりだな。
「フェノンやシリーは見知った顔もいそうだな。王城で勤務していた人を引き抜いているかもしれないし」
頭の後ろで手を組み、歩きながら俺がそう言うと、フェノンは頷きながら「そうですね」と返事をした。
「メイドは仕事ができて歴の長い者を、騎士団からは精鋭を送り込んできているでしょう。私も詳しく知らされていませんから、楽しみです」
彼女は笑顔で俺の顔を覗き込みながら、そんなことを言う。思わず頭に手が伸びそうになったが、ここが街中であることを思い出してなんとか踏みとどまる。
危なかった……普通に頭を撫でそうになってしまった。
「ふむ……ひとまずはノアを頼ることになると思うが、大丈夫か?」
思案顔でそう口にするセラ。彼女が言っているのは、危険人物の判定についてのことだろう。
悪人かどうか、周りに秘密をバラしてしまいそうな人物かどうか――心が読めるノアならば、即座に理解できるだろうし。
「もちろんだよセラ。僕も変な人が近くにいると落ち着かないからねぇ。使用人さんたちには悪いけど、定期的にチェックさせてもらうよ」
「おぉ……お前、ちゃんと心を読むことに対しての罪悪感はあったんだな……お兄ちゃん、ちょっと感動したぞ」
「ねぇ? それちょっとバカにしてるよね? 絶対バカにしてるよねっ!?」
「HAHAHAHA」
誤魔化すために、外人風に笑ってみた。
すると間髪いれずに、ノアにわき腹を肘でどつかれた。つつかれた――ではなく、どつかれた。痛いんですけど!?
そんな風に、俺たちは和気藹々とした雰囲気を漂わせながら、街中を歩く。
会話が聞こえていないはずの街の人たちも、俺たちの様子を見ながらクスクスと笑っていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして、ようやくたどり着いた新たな拠点。
王城に行っていたのは午前中なので、時間としてはちょうど昼食時だった。だが、お腹を埋めるにしてもまずは新居の引き渡しを終えたい。というか、できれば新たな家でゆっくりと食べたかったのだ。
俺たちは外観をねっとりと見回した後、家の前で待機していた建築業者の人と話をしてから、満を持して建物の入り口へと向かう。
もしかしたら食事も使用人さんたちが用意してくれるのかなぁ――などと、呑気に考えていたのだが――腹の減りぐらいなんてどうでも良くなるほどの衝撃が、俺たちに襲い掛かってきた。
「お、お姉ちゃんっ!? それにお父さんもお母さんも、どうしてここに居るのっ!?」
シリーは玄関ホールで出迎えてくれた使用人たちを目にすると、驚愕の表情を浮かべた。口調もいつもとは少し違っていて、普段より幼い雰囲気になってしまっている。視線の先には、メイド服を身に着けた20代後半ぐらいの女性と、それより少しだけ年上に見える女性。
「こ、これは想定外だわ……」
思わず、そんな言葉が零れる。
シリーが口にしたことを考慮するのであれば、この二人は親子であるはずで、年もそこそこ離れているのだろうけど、とてもそうは見えない。お母さん若すぎじゃね?
メイド服の女性陣は、そんなシリーの様子を見て必死に笑いを堪えている様子。いまにも『ドッキリ大成功』のプラカードとかを出しそうな雰囲気だった。
「シリー、声が大きいですよ」
そう優しい声で注意しているのは、執事服を身に着けた、これまた30代ぐらいに見える男性。シリーの年齢を考えると、父親であるこの執事は少なくとも40を過ぎているはずなんだが……異世界って不思議だ。
シリーの少し垂れた目もとは、きっとこの人から遺伝したんだろう――目はシリーと違って、糸目のようになっているけれど、面影がある。
他人事のようにそんなことを考えていると、同じような騒ぎが別の個所でも起きていることに気付いた。
「レイ兄さんっ!? なぜここにっ!?」
声を荒らげるセラの視線の先には、鎧で身を包んだセラの一つ上の兄――レイ=ベルノートさんの姿が。世界崩壊前に武道大会で目にして以来だが、俺の記憶力も捨てたもんじゃないな。
「なぜって言われてもな……この家の警備をすることになったからだ。後ろにいるのは俺の部下で――」
「それはどうでもいいっ! いや、どうでもよくはないが――あぁ! すまないっ! そんな悲しそうな表情をしないでくれっ! 貴方たちのことをないがしろにしたわけではなく――」
わたわたと手を動かしながら、セラはレイさんの部下に向かって必死に弁明の言葉を並べている。何やってんだか。
それにしても、だ。
「びっくりするぐらい身内で固めてきたなぁ……」
傍観者となっている俺、フェノン、ノアの三人は、少し下がってことの成り行きを見守っていた。
一応、フェノンに対して何か言いたげな視線を執事が送っていたが、彼女は身振りで『構わない』という旨を伝えているようだった。
「これならば裏切り等の心配はしなくても良さそうですね。シリーの家族は王城で勤務していましたから、私とも面識があります」
「なるほどなぁ……。なんかもう、使用人を雇ったっていうより、家族を迎えいれて友人を連れてきたって感じだよなぁ」
シリーの母親から俺を見定めるような視線が飛んできているのだが、これは気付かないフリをしておいたほうがいいのだろうか……。ちなみにお姉さんは、なぜか俺を見て舌なめずりをしていた。お願いだから食べないでください。
遅れてやってきた迅雷の軌跡たちは、すでに使用人のことを知っていたらしく、俺たちの反応をみてゲラゲラと笑っていた。
腹いせにシンの訓練はもう一段階厳しくなり、彼は泣き言を口にする羽目になるのだが――それはまた別のお話だ。