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いまかいまかと新居ができるのを待ちわびつつ、俺たちはいつも通りの日常を過ごした。
変わったことといえば、ノア以外の三人とそれぞれダンジョンデートをしたことぐらいだろうか。
これは以前ノアと二人でダンジョンに行った際に他のメンバーから『ノアだけずるい』と抗議を受け、約束していたモノである。
いやぁ、非常に楽しかった。
皆と過ごしている時と、二人きりになった時とでは態度や雰囲気が違っていて、とても新鮮な気持ちになる。
それから、今まではレグルスさんの働きかけによりダンジョンへ入場する際のライセンス提示を断らせてもらっていたが、正式にギルドにてAランクダンジョンを踏破したことを告げ、証明としてライセンスの踏破歴を見せている。
もちろん、職業はまだ見られるわけにはいかないので、ダンジョンへ入場する時は相変わらず提示を拒否しているが。
「陛下から呼び出しかぁ……どの件についてだろうな」
レーナスの街近くにある、俺たちの家。
リビングに集まったメンバーたちに問いかけるようにしながら、俺はそう呟いた。
ほんの数分前、俺たちの家にやってきた騎士が俺たちに陛下からの伝言を残していったのだ。
曰く、ASRのメンバーで王都に来てほしいと。
日程は十日後。そしてその日はまるで狙ったかのように、新居の引渡しの日でもあった。
「Aランクダンジョン踏破か、新居についてか――あるいは新しい使用人についての話かもしれないな」
「称号の可能性もあるかもねぇ。個人にじゃなくて、迅雷の軌跡みたくパーティに与えられる感じで」
「お父様がエスアールさんを見定めようとしているのかもしれませんよ?」
「うーん、どれもありえそうです。……そういえば、私たちのスリ討伐に対しても、報酬はまだでしたね」
四人からそれぞれ反応が返ってくる。全部ありえそうだ。
「どれも可能性はあるよな。なんにせよ、行ってみなきゃわからないんだが」
「そうだねぇ。騎士の人も詳しく知らなさそうだったし」
ちゃっかり相手の心の内をチェックしていたらしいノアが、残念そうに言う。
「まぁ陛下やディーノ様のことだし、変なことにはならないだろ。あの人たちは良い人だし」
陛下は俺がこの世界にやってきた時、勇者ではないただの役立たずかと思われていたのにもかかわらず、俺のことを心配して、さらに申し訳なさそうに謝罪までしてくれた人だ。
ディーノ様はきちんと話せば融通が利くし、俺たちの意見もしっかりと考慮してくれそうだ。
「ふふっ、そうですね。案外ディーノあたりはエスアールさんと私たちの関係に気付いていて、黙ってくれているかもしれませんよ?」
それはそれで見張られている感じがして怖い。だが、ディーノ様ならありえそうだ。
もしかしたら王都へ出向いた時、俺だけ別室に呼び出されて、ディーノ様から尋問みたいなものを受けることになったりして。
……考えすぎか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
考えすぎじゃなかった。
「お時間を取らせてしまいすみません。エスアール殿」
「いえいえ、今日は一日空けてますから問題ありませんよ」
王城の中にある一室。
そういえば昔、Bランクダンジョンを踏破した時に称号を示す腕輪を貰ったのもこの部屋だったなぁ。あの時は迅雷の軌跡やセラもいたけれど、今は俺一人。
お茶を持ってきてくれた使用人の人も早々に退出してしまい、今この部屋には俺とディーノ様の二人だけになっている。俺とディーノ様の話が終わったら、その後は皆と合流して陛下と謁見する予定らしい。
「さて、陛下との謁見も控えていることですし、単刀直入に申し上げましょう。エスアール殿をお一人でお呼びしたのは、貴方とフェノン様の関係についてお聞きしたかったのです」
おおう。いきなり本題だな。
これまでもディーノ様と顔を合わせる機会はなんどかあったが、ここまでドストレートな質問は初めてだ。これはもはや質問というよりも、最終確認と考えたほうがいいだろうか。
「……なんというか、まぁ、ディーノ様のお察しの通りです――もしかしてフェノンから何か話を聞いてましたか?」
もともと外堀から埋める作戦だったので、フェノンが俺を持ちあげるようなことを王城内で話していた可能性も十分にある。
「それはもちろん。フェノン様からのお話は、九割エスアール殿の話ですから」
どんだけ俺の話をしてんだよ。
外堀を埋めるにしても、ミキサー車を使ってコンクリートを流し込んでいるような勢いの埋め方だった。力技すぎる。
「私の予想としては、エスアール殿はフェノン様、セラ殿、シリーと恋仲であるのではないかと。どうでしょう?」
もはやここまで的確に指摘されて、誤魔化すのは無理じゃないか? というか、別にもう隠す理由はないのだけども。
「セラとフェノンについてはそうですね。シリーについてはまだ……といった感じです」
「なるほど」
そう言って顎に手をあてるディーノ様からは、俺の節操のなさに憤慨するような雰囲気は見受けられない。どちらかというと、好意的に考えてくれているような気もする。希望的観測でないことを願うばかりだ。
「できれば皆様の出会いなど、詳しい話をお伺いしたかったですが、今日は時間的にも難しそうですね。私の個人的な意見としては、エスアール殿がお相手ならとても喜ばしいことだと思います」
そう言ってディーノ様は、目尻にシワを作って穏やかな笑みを見せる。安堵の息を吐きたい気持ちをこらえつつ「ありがとうございます」と答えた。
「王都やレーナスの住民はASRの方々の仲睦まじい姿を目にしており、疑問には思わないでしょう。ただし、何も知らぬ人からすればただの平民と王族の婚姻です。――私の言いたいことはわかりますね?」
俺たちのことをよく知らない――そんな人をも納得させられる実績が必要――ってことだろう。
納得させる――か。
……いや、そんな消極的でどうする。
目立つことを――特別扱いされ、腫れ物扱いされ、奇異の視線に晒されることを容認するのであれば、俺は好きなだけ暴れてもいいのだ。
テンペスト時代の――この世界の住民が未だ見たことのないような戦いを見せても構わないのだ。
それに、仮に周りが納得しなかったとして俺は彼女たちを諦めるのか? 違う――そうじゃないだろ。
「えぇ、もちろんです。周りを納得させるだけのことは成し遂げるつもりです。ただ、もしそれでも納得できないという輩が現れたのなら――」
そう言って、俺は一拍の間を置いた。
次の言葉に、強い想いを乗せるために。
「――実力で説き伏せてみせましょう」
これからは『文句があるならかかってこい』――そんなスタンスで行くことにしてみようか。
次回更新は8月11日(水)となります。
週一更新となり、皆様をお待たせしてしまいますが、なにとぞご了承ください((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
その日にはコミカライズの方も更新されますので、そちらもどうぞよろしくお願い致します┏○ペコッ