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レーナスに到着してから、女性陣の機嫌がすこぶる良い。
そしてそれは厳密に言うとレーナスに向かっている途中からであり、理由は俺と同棲する未来が見えたから――だと思うのだが、誰かに確認したわけではないので真実であるとは限らない。勘違いだったらとても恥ずかしい。
しかしパーティメンバーの中で、俺と普段から共に過ごしているノアだけは通常営業であり、時折意味ありげに『お兄ちゃんは幸せ者だねぇ』と呟いている。幸せで悪いかよ。
王都に新たな家が完成するのは二ヶ月後。
建物発注からだいたい一ヶ月が経過したが、セラたちの楽し気な空気は周囲にもしっかりと伝わっているようで、ダンジョンの受付やギルドの人から「何か良いことありました?」と聞かれるほどである。余談だが、セラは町中でスキップをしていてコケた。
彼女たちのファンである探索者の中には「男か? 男ができたのか?」などと、とても勘の鋭いやつもいるが、彼らが真実を知るとき俺はきっと王都にいるだろう。せいぜいレーナスを血涙で満たしてくれ。
「特に問題行動を起こしたこともないし、実績さえちゃんとしてれば陛下も認めてくれるだろうと思うんだが」
例えば、Sランクダンジョン踏破とか。
懸念があるとすれば、崩壊前の世界で俺はフェノンの命を救った英雄ということになっていた。そのためゼノ陛下や宰相のディーノも俺とフェノンの結婚に対して好意的だったが、今回はどうだろう。
いざとなればフェノンやセラ、迅雷の軌跡たちによる権力ある者たちのゴリ押し作戦というのもあるが、できれば俺自身の力で認めさせたいと思う。これでも男なので。
「色々悩んでいるみたいだけど、国王のゼノはすでにお兄ちゃんのことをある程度認めているよ」
テーブルを挟んで向かい側に座るノアが、呆れたような口調で言う。
あと三十分ほどすれば、他のメンバーもこのレーナスから離れた我が家に到着するが、今はノアと俺の二人だけである。
こいつと過ごす日常も、なんだか当たり前の風景になったなぁ。
「そもそも第一王女――大事な娘が所属するパーティのメンバーなんて、根ほり葉ほり調べるでしょ。別に害はなさそうだったから言わなかったけど、警備の騎士やダンジョンの受付とか、僕らと関わる人は王族の息が掛かった人が多いよ」
「えぇ……なんでソレ言ってくれなかったんだ?」
「セラやフェノンにとっては良いことだからね。悪いようには思われてないようだし、だからゼノはお兄ちゃんのことを『人柄に問題なし』と判断しているはずだよ。謁見の時も、お兄ちゃんのことは特別注意して見ていたようだし」
「悪く思われてないならいいけど……じゃああとは周囲が納得するような実績だけってことか」
「そういうことだねぇ」
ノアはそう言って紅茶を一口飲むと、「ただ――」と続ける。
「もしかしたら、Sランクダンジョン踏破だけじゃ物足りないってなるかもしれないよ。以前の世界ならまだしも、いまはBランクダンジョンのクリア者も多いし、迅雷の軌跡がAランクを踏破済みだから」
あぁ……それは確かに。
可能性としては低いと思うが、認められない確率は0ではなさそうだ。
となると、誰も到達できないような境地――つまりベノムと再戦する必要があるのだろうか? 俺としては覇王の状態でもう一回戦ってみたいと思っていたから、別にいいんだけどさ。
「どうだろう。そればっかりは僕にもわからないや――あぁ、わからないっていうのは認められるとかそういうことじゃなくて、SSランクダンジョンについてだよ」
「ん? ゲームみたいに覇王城ができるんじゃないのか?」
てっきりそうだとばかり思っていたが。
「さぁ……決めるのは僕じゃなくて、現在この世界を管理しているイデア様だから。なにせテンペストに出てきた覇王城というのはあくまでゲームの要素で、実際こちらでは封印されていただけだ。城なんてものは元々無かったし……だからSランクダンジョンの続きがあるとしたら、一から作る必要があるんだよ」
「……マジかよ。じゃあ最悪、Sランクで終わり――ってパターンもありうるのか?」
「可能性としてはね。でも、イデア様のことだからきちんと代わりは用意していると思うよ。それに、何度も話したけどあの方の力は桁違いだ。荒唐無稽なこともできてしまうから、僕らには想像できないような、新しいダンジョンが創られることになるかもね」
「おぉ……そのパターンは考えていなかった」
めちゃくちゃ期待してしまうじゃないか。
終わりが見えていたテンペストに、新たな風が巻き起こったりしちゃうのか?
覇王になった俺ですら苦戦するような、強敵が準備されちゃったりして!
「ウキウキしているところ悪いけど、そうと決まったわけじゃないからね? あまり期待しすぎないように」
「大丈夫。俺は冷静だ」
「はは……そのセリフは鏡を見てから言ってほしいよ」
それから数日後、レーナスの街では『ノア以外の四人がやたらとニヤニヤしており、不気味だ』と、探索者や街の人が話している――そんな話をノアから切り出された。
それぞれ心当たりのある俺たちは、見た目最年少の彼女に向かって深々と頭を下げたのだった。
どうもすみませんでした――と。