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『小説家になろう』初!!
文春オンラインにてコミカライズ連載開始!!
翌日。
俺とノアは朝早くから探索者ギルドを訪れていた。理由はもちろん、昨晩舞い込んできた面倒事を片付けるためだ。
使用させてもらっているのはいつもの防音個室。テーブルを挟んだ向かい側には、久方ぶりに会う迅雷の軌跡がソファに腰掛けている。
スズとライカはいつも通りだが、シンはまだ瞼に力が入っておらず、本調子ではない様子――相変わらず朝に弱いな。
「……急に呼び出されたと思ったら、お前さんにボコボコにされなきゃいけないのか」
「自業自得じゃない。シンの発言が原因なんだから」
「エスアール、思いっきりぶちのめしていいですよ。国際武闘大会で優勝してから浮かれてるですからね、ウチのリーダーは」
「そんなことねぇよ……まったく、久しぶりの再会なんだからゆっくり話したかったんだがな」
「誰のせいだと思ってるですか誰の」
女性陣の厳しい言葉に、リーダーは深いため息を返事とする。ため息を吐きたいのは俺も同じだよ、シン。
ジルとアーノルドを納得させるべく、俺が提案したのは慣れ親しんだ多対一の試合。
迅雷の軌跡、ASR、そしてヴィンゼット姉弟と同時に戦う九対一の構図も中々に楽しそうなのだが、万が一その光景を誰かに見られたらマズイので断念。
そんなわけで、人数制限はあるが決して誰にも見られることのないダンジョンの中で戦うことにした。
入場するメンバーはヴィンゼット姉弟と、ノア、シン、そして俺の五人。
午後からはセラやフェノンたちと合流する予定なので、それまでにパパッと済ませてしまえばいつもの日常へと戻ることができるという計画だ。
その後は、シンたちも一緒にレーナスへ移動し、そこでのんびりと話を聞くことができればベスト。
欲を言えば、今日の夜はレーナスの拠点で眠りにつきたいものだ。連日宿屋だと家が恋しい。
「王女様たちは別行動だったからまだしも、よくセラは我慢できたな。『私も行きたい!』とか言わなかったか?」
そうシンが口にすると、パーティメンバーの二人も同じ疑問を抱いたようで、不思議そうな表情で俺に視線を送る。シンの気持ち悪い声真似には誰も突っ込まないんだな。
「あいつは昨日、その話をする前に酔いつぶれた」
「お兄ちゃんがおぶって家まで送ったけど、最後まで起きなかったからねぇ。たぶんまだ家で寝てるんじゃないかな?」
おそらく昼頃までは寝てるんじゃないかと思う。酔いつぶれたときは、だいたいそんな感じだし。
俺とノアの言葉に、対面の三人は揃って苦笑いを浮かべるのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
レグルスさんに軽く挨拶をしてからギルドを出て、俺たちは待ち合わせ場所であるFランクダンジョンへと向かった。
スズとライカともここで一旦別れるかと思ったが、『どうせすぐ終わるでしょ?』とのことで、共に目的地を目指すことに。
まぁ難易度ベリーイージーの一階層の敵を一掃して、カウントダウンタイマーが0になるまでの10分で試合をするつもりだし、彼女たちを長時間待たせることにはならないだろう。
それはいいとして――、
「人が少ない時間とはいえ、油断したなぁ」
ギルドを出てから数十秒後。
迅雷の軌跡はあっという間に大勢のファンたちに囲まれてしまっていた。俺は離れた所で、蟻の大群を思わせるその光景をぼんやりと眺めていた。
よくよく考えれば昨日パレードをしたばかりなのだし、こんな状況になるのは少し考えればわかること。
だが、俺にとってシンたちが親しい間柄であるがために、彼らが有名人となってしまったことをすっかり失念してしまっていたのだ。なんてこった。
「僕らだけで先に行っちゃう?」
「後からシンたちが人を引き連れてきたら意味ないだろ……んー……スズとライカに足止めでもしてもらって、俺たちは上からいくかぁ」
ダンジョンの外では試したことはなかったけど、たぶん問題ないはず。騎士団の連中もこれぐらいの脚力はあるだろうし、ASRのメンバーである俺とノアなら不思議に思われることもあるまい。
「よっ――と」
掛け声とともに強く地面を蹴り、空に向かって高く飛び上がった。想定通り、近くにあった宿屋の屋根の上に着地すると、ほぼ同時にノアも俺のすぐ隣に降り立つ。どうやら彼女は俺の思考を読んで、同じタイミングでジャンプしたらしい。
「おーい! シン! こっちだ! スズたちは後からゆっくりこーい!」
「――っ!? わ、わかった!」
視線を俺たちに向けたシンは一瞬驚いた表情になったものの、さっと人の少ない場所に移動し、ためらいなく屋根の上へと飛び上がった。さては経験者だな? こいつ。
「スズとライカから伝言――『昼ご飯はおごり』――だって。僕の読心が通信具代わりに使われている気がするなぁ」
「お前に神の威厳的なモノが欠如しているからだろ」
「そんなことないもんっ!」
そんな言葉遣いしてるからだろうが。まぁ良く言えば、彼女がそれだけ親しみやすいということなんだけど。
スズたちも最初にノアに会った時からこんな風に接していたわけじゃないだろう。ノアが神であることは、のじゃロリ様のもとで俺やノアのことを見ていた彼女たちには、疑いようもないだろうし。
だが、そんな彼女たちもいまやノアと友達感覚だ。それもおそらく、ノアがこの世界の住民として溶け込もうとした成果なのだと思う。
「おいおい、お前らこんな目立つところでケンカするなよ……とっととズラかろうぜ」
「…………それ、レグルスさんの前で言うなよ」
「え? なんでだ??」
いやなんでって――そりゃあねぇ?
「ほらほら、ふざけてないで急ごう。のんびりしてるとどんどん人が増えちゃうよ」
呆れたような声音でそう言うと、ノアはトン――と軽い足音で隣の屋根へと飛び移った。体重が軽いからなのか身体の扱いが上手いからなのか……俺も見習わないとな。
「別に俺はふざけたつもりはないんだが……」
そう不服そうに呟くと、シンもノアの後に続いた。
魔物との戦闘中ならまだしも、こう街中を飛び回っていると違和感しかないな。地球なら大騒ぎだぞ。
「連帯責任ってやつだ」
そう言って追いついたシンの背中を軽く叩くと、「しょうがねぇなぁ」と情けない表情になって頭を搔く。
なんだかんだ、懐が広いんだよな。
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