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「…よし!こんなモンかな?」
わたしは厨房に用意された大人数分の朝食を前に、腰に手を当て、満足気に息を吐いた。
スクランブルエッグに厚切りベーコン。アムカムボアのばら肉シチューとハニートースト。
実際に調理をされたのは、アムカムハウスの料理長なんだけど…。
実に100人近い人数分の料理だ。盛り付けを手伝わせて頂いた。
本当は、お給仕もお手伝いしたい所だったのだけど…、アムカムハウス内での仕事も落ち着いて、メイドさん方の手も空き、皆さん此方に回って来た。
わたしが出るまでも無いのだと…、奥に引っ込んで居なさい…と、シクシクシク…。
『食堂の看板娘』の仕事が無くなってしまつたのでつ……。
まあ、ソニアママやアンナメリーに、必要以上に騎士団の前に姿を見せない様に とも言われてしまったしなぁ…。
目下絶賛失業中ですの…。
でも裏方の仕事なら幾らでもあるモンねー♪
要するに、お客様たちの眼の届かない所で仕事をすれば良い訳なのだ!
こんな風に調理の手伝いとかね!下拵えやお皿を並べるとか、お片付けや皿洗いだってある!
室内なら、お洗濯やお掃除だって出来るモノね!
尤も、メイドさん達にそんな事してるのを目に止められると、忽ち仕事を取り上げられてしまうのだけどね…ァウ!
それでも隙を見ては仕事を見つけてやってしまうのさ!ウヒ!
そんな感じで見つけた洗濯物のお仕事で、東棟の南側にある広場一杯に洗濯物を広げ干し終えて、気持ち良く伸びをしていたら見知った姿が目に飛び込んで来た。
「マーシュさん?!こんな早い時間からどうなさったんですか?」
そこに居たのはコープタウンの鍛冶工房の工房長、マーシュ・カウズバートさんだった。
「おお!クラウドの嬢ちゃんじゃないか!なんだ?村の手伝いか?」
「はい、そうなんですけど…マーシュさんはどうされたんですか?……もしかして、武器防具の納品ですか?」
マーシュさんは大きな革袋を、右肩に引っ掛ける様にして持っておられた。
ん?でも納品にしては荷物が少ないかな?
「うん?まあそんな所だ…、そうだ嬢ちゃん丁度いい、騎士団が居るのは何処か分るかね?」
「あ、ハイ、此方の東棟の先に臨時の宿舎が作ってありまして…、ちょうど手も空いた所ですのでご案内しますよ」
「そりゃ助かる。頼むよ嬢ちゃん」
どうやらマーシュさんは騎士団本体では無く、兵站部隊の人に用向きがあるらしい。
「去年の秋口に少しばかり手を貸した物があってな…、その仕上がりを見に来んだよ」
そう言えば去年、2ヶ月くらい王都に行かれていたんだっけ。
マーシュさんはその時に手掛けた仕事の出来を確認に来たらしい。
騎士団がコープタウンに着いた時は時間が無かったので、アムカムハウスに落ち着いてから見に来て欲しいと、頼まれたと云う事だ。
「ま、それ以外にも仕事はあるんだがな…。お!居た居た!!おい!フレッド!!」
「え…?あ!カウズバート師!いらして下さったんですか?!」
騎士団が簡易倉庫として張ったテントの近くまで来ると、そのテント前に居た人にマーシュさんが手を挙げて声を掛けた。
フレッドさんと呼ばれた人は、騎士団の他の人達の様に革のジャケットやブーツ、グローブは身に付けていなかった。
代りに全身カーキ色のツナギっぽいウエアと、普通に革のブーツという格好だった。
黒いサイケな柄のバンダナをハチマキの様に黒髪の頭に巻いて、まるっこい顎の周りの無精髭が凄い。
青い垂れた目がちょっとドロッとしてるかな?隈も凄いから寝不足なのかも?
何だろこの人?この出で立ち?ふぁんたじぃに似つかわしくないよ?!
手に持ったペンで頭をガリガリ掻き、もう片手のバインダーの書類をチェックしていた様は、まさにメカニックな人そのものなんですけどぉ?!!
フレッドさんはペンを持っていた手を上げて、マーシュさんに御挨拶をされていた。
「態々ありがとう御座いますカウズバート師!お持ちしてましたよ!」
そう言うとマーシュさんの近くまで歩み寄り、その両手を握って上下に揺らし嬉しそうに語りかけていた。
「師の残された四式改を調整し、現在改二として運用に成功しています!どうか見てやっては頂けませんか?!」
ナ、ナニ?なんだぁ??!なにやら更にファンタジーには不似合いな単語を吐き出して来て無いかい?!
四式?改二?
疾風るの?抜錨るの?!って言いたくなる単語だよね??!!
最初、マーシュさんを案内したら直ぐ引き上げようと思ってたんだけど、好奇心に引き摺られ、一緒にテントの入口まで来てしまった。
だって、四式とか改二とか呼ばれている物ってナニ?!
一体何を作ったの?!気になって夜も眠れなくなるじゃにゃいのよ!ねぇ?!
テント前まで来ると、中からマグリットさんとジモンさんも出て来られた。
「姫様?!どうなさったんですか?こんな所へ!」
私を見つけたマグリットさんのセリフに、一瞬フレッドさんは目を見開いて 姫様? と驚かれていた様だったけど、あまり騒ぎ立てない様に、とジモンさんが制して下さった。
何故此処にマグリットさん達が居るのかと云えば、そもそも、騎士団本隊の先を行き、部隊進攻の要を担う先遣部隊の部隊長であるマグリットさんは、兵站全体の責任者でもあるのだ。
アムカムへ来る途中、コープタウンのマーシュさんを訪ねて、お声掛けをしたのもマグリットさんだと云う事だ。
「良くおいで下さいましたカウズバート殿。ローリング主任も首を長くして待ち侘びていましたよ」
マーシュさんが、マグリットさんジモンさんと握手を交わしていた。
フレッド・ローリングさんは、マーシュさんが王都に居る時に技術指導をされていた方で、兵站部隊の整備主任なのだそうだ。
言って見れば、マーシュさんの弟子のお1人って事らしい。
「今、整備を済ませた物から順に稼動確認をする所だったんです。良かった!これでカウズバート師にも確認して頂ける!」
「ほぉ、それは良いタイミングだったか?なら早速見せて貰おうか!」
稼動確認?それは4式とか?改二とか言われてる奴の?
一体それは何の事なの?!見たい!みたい!!見たいいーーーー!!!
「なんだ?嬢ちゃんも見たいのか?」
マーシュさんがわたしを見て、そう仰った。
顔に出てたかな?好奇心剥き出しで、メッチャ物欲しそうな顔をしてた気もしる…ちょと恥ずかしくなった。
そんな恥じ入ったわたしを見て、苦笑しながらマーシュさんがマグリットさん達に見学の確認を取ってくれた。
マグリットさんも笑顔で許可をくれたけど…。
なんかその微笑ましい物でも見る様な優しげな眼差しが、尚の事わたしの羞恥心を刺激して頬に熱を感じてしまう。
マグリットさんの御許可も頂いたので、皆さんとご一緒させて貰う事になった。
向かう場所は東棟にある修練場。
アムカムハウス本棟に連なる東棟は、元々アムカム領時代、城に仕える騎士さんや兵士さん達の宿舎だったそうだ。
そこにあった施設は、その時代のまま残され今も使われている。
それは学校にある修練場よりも、遥かに頑丈な造りになっているそうな。
グレード持ちの方達も良く使っているそうだから、かなりの物だと云う事が窺い知れる。
修練場の前に到着すると、その入口手前のベンチの上でボロ布の様になった人らしい塊が、息も絶え絶えな様子で蠢いていた。
良く見るとそれは、昨日お会いした騎士団のお1人、カイル様だ!
何でこんな場所でそんな状態で?!!
思わず駆け寄り、声を掛けようとしたのだけれど…。
マグリットさんもジモンさんも、スイッと目線を外し、見なかった事にして其処を足早に通り過ぎて行く。
マーシュさんとフレッドさんは元より気にも留めず、談笑しながらドンドン進んでいた。
…む、こりは……、見なかった事にした方が良いのでせうか?
特に酷い怪我をしている訳でも無いし、多分朝から夢中で鍛練に打ち込んでいたのだろう。暫く休んでいれば体力も回復しそうだしね。
そうだよね!ボロボロになってるトコを女の子に見られるのは恥ずかしいもんね!ウン、ココは見なかった事にしてあげよう!
それが『気遣いの出来る女子』ってもんだよね!
ウン!見なかった事にしよ!そーしよー!
少し後ろ髪を引かれたけれど、そのまま皆さんの後を追って修練場の建屋内へと入って行った。
ロッカールームやシャワールームのある10メートル程の通路を抜けた先にある、分厚くて大きく武骨な両開きの扉を開け、修練場の中へと入る。
修練場の大きさは30×30メートルくらい。
2面コートの室内テニス場、って感じの大きさかな?
その中、地面の上に20個程、整然と背嚢の様な物が並べられていた。
その内の一つを背負って、背嚢の背負い具合を確かめている人が居た。
手甲、脛当てを着け、革のジャケットも身に着けているから騎士団の方だと分る。
その人にマグリットさんがお声を掛けていた。
「これから稼動確認するそうです!カウズバート殿!どうぞお近くへ!」
マグリットさんが声を上げてマーシュさんを呼び寄せた。
「トニー、始めて貰えるかな?」
背嚢の後ろ側に回り、何やら確認をしていたフレッドさんに言葉を掛けられ、トニーさんと呼ばれた方は軽く頷いた。
この背嚢も、近くで良く見ると普通の物とはチョット違う様な気がする。
材質も布じゃないのかな?なによりダボっとして無くて、布よりずっと硬質な感じがする。
なんだか宇宙服のバックパックみたいにも見える。
背嚢の左横に剣…恐らくナイトソード…が突き立っているのが分る。あの位置だと抜き難くないのかな?
肩から伸びるストラップも、普通の物よりずっと太い。
胸元を止めるチェストストラップも幅が厚くて、左側のショルダーストラップと交差する場所には、大きな円形のパーツが付いている。
良く見ると、そのパーツの中心には魔珠が埋め込まれている様だ…。ん?いや、あれは……制御珠?
腰回りを止めるストラップも凄く太くて金属質だ。
なんだかラ〇ダーベルトっぽい…?
もっと良く見ようと近づこうとしたら、ジモンさんに 此処でお待ち下さい と1メートルくらい離れた所で止められた。
フレッドさんも一歩下り、トニーさんに向け頷いた。
「重機動魔導装甲展開」
トニーさんが胸の制御珠に手を置き、そう唱えると制御珠が輝きを放った。魔力が注ぎ込まれたのだ。
シアンブルーの光が辺りを包むのと同時に、背負っていた背嚢…いや、バックパックが開いて幾つものパーツに分れ、トニーさんの身体を覆って行った!
胸部に!腹部に!腿に!腰に!腕に!肩に!
見る見るその身体が重装甲に覆われて行く!!
最後に頭部!
口元に左右からクラッシャーが伸び閉じる!
パーツが後から覆い被さり、フルフェイスのヘルメットの様に顔を隠した。
光が収まった時、フルプレートの重装甲を纏った騎士様がそこに居た!
なんっっじゃ!コリャーーーーーーーッッ?!!!
度肝を抜かれたぁぁぁ!!!!
トニーさんの左腕にはカイトシールドが装着されていた。
鋭角な方が肘側、開いた方は手首側だ。
左手の手首の甲部分に、カイトシールドから突き出したナイトソードの柄の部分が見える。
それを徐に右手で引き抜き、そのまま空を斬った。
そのまま一つ、二つ、剣技の型を見せ、動きを止めた。
さっきからわたしの口は、顎が外れたみたいに大きく開きっぱなしだ!
目だって、これでもかって程見開いてる!!
良くこんな顔をビビ達にさせてたけど!まさか自分がする事になるとはっっ!!
こんな顔、ハシタナイのは重々承知しております!でもね!だけどね!!
これが四式?これが改二?
あり得るのぉ?!コレ有りなのぉぉ?!!
これ!どぉー考えてもパワードスーツよねっっ?!
この装着の仕方は有名アメコミヒーローの鉄な人とかだよね?!もしくは、燃える様な赤いバラ胸に添える教師な人達とか?!
何処行った?!ふぁんたじぃぃぃーーーーっっっ!!!
いや、でも仕上がりは確かに重厚なフルプレートの鎧なんだけどね?!
左胸のトコは綺麗なブルーの制御珠が輝いてるけど、ちゃんとした鎧だものね!!
「ふむ…ミスリルとマジックチタンのβ合金か…。ミスリルの産地は…王都東のマイン鉱山だな?近場の鉱山での採掘でコストを抑えたか」
「はい、素材の質は落としましたが、魔力伝導率はオリジナルの80%まで上げる事に成功しています。これは実用に足る数値です。コスト面でも量産が可能になりました」
マーシュさんが鎧をコンコンと叩いたり撫でたりしながら、フレッドさんと専門的な話を始めてしまった。
皆さんにとってコレは当たり前の動作だった様で、今、目の前で起きた事に目を剥いているのは、わたしだけらしい…。マジか!
「姫様…、驚かれましたか?」
呆けていたわたしに、マグリットさんが伺う様に声をかけて来た。
「拠点防衛の要となる重装守護騎士と違い、前線や辺境を進軍し続ける我々機動重騎士団は、常に重装備を纏っていられる訳ではありません。しかし、我々本来の機動力を削ぐことなく、騎士の戦力も保持させてくれるのが、この重機動魔導装甲なのです」
そんな風にマグリットさんが説明をしてくれた。
普段から身に着けているグローブとブーツは、本当にそのまま手甲と脛当てになった。
パイロットジャケットみたいな上着と革のパンツは、鎧下となって衝撃を緩和する事に役立っているそうだ。
マーシュさんは、まだフレッドさんとお話を続けていた。
取敢えず呆けから立ち直り、これ以上此処に居てもお邪魔になるだけだろうと思い、マグリットさんにお暇を告げてその場を後にしようとしたら…。
「嬢ちゃんすまん!旦那に今日中に整備を始めると言って置いてくれるか?なに、明日中には現役に戻してやると伝えてくれ!!」
と、マーシュさんにハワードパパへの伝言をお願いされた。
2~3日此方に滞在するとも仰っていたから、ココ以外にも何か整備する物があるのかな?
おっと、いつの間にかもうお昼の用意を始めないとイケナイ時間だ。
この後お昼をお届けする時に、ハワードパパにマーシュさんのご伝言をお伝えしよう。
皆さんにお邪魔をさせて頂いたお礼を述べて、その場を後にした。
大きな扉を閉めるまで、マーシュさんとフレッドさんの興奮した様な声が修練場内で響いていた。
「う゛ーー……スーちゃん成分が…足りないぃ…!」
「試練が終わったばっかりなのに、また暫く学校に来れないって?」
「しょうがないわね、今は村が大変な時だもの…あの子頑張り屋さんだし」
「これを契機に!ちゃんとアムカムの頭首の娘としての!自覚を持ってくれるのを期待するわ!」
「んーー、どうかしら?あの子、そう云う方面に頓着無い上に鈍いわよ?」
「う゛~~…スーちゃん、…抱き抱きしたぃ…」
「そうよねー…!はぁ~…!まだまだアタシ達でカバーしないといけないわね!」
「どっちみち、御頭首へのフォローは御三家の仕事でしょ?」
「ま!そうなんだけどね!」
「う゛~~~……スーちゃん、…プニプニしたぃ…」
「それにスーは私達よりズッとビビを信頼してるしね。あの子ビビの事頼りにしてるんだから、ちゃんと力になって上げなさいよ?」
「ま!まぁそうね!そ、そうかもしれないわね!頼られたらしょうがないし!…クロキの家の務めでもあるものね!」
「ビビ、顔がニヤけてるよ。頼られるのが嬉しいなら、ウレシイって言ばばイイじゃん!はは!」
「ニ!ニヤけてないもの!!」
「う゛~~~~……スーちゃん、…クンカクンカしたぃ…」
「アンタ!さっきから全然ブレが無いわね?!」
「う゛~~~~~…スーちゃんん…」
「…そういえば!昨日一緒に晩餐した時に!今日の午後は時間が空く様な事言ってたわね!」
「そうなの?…そうね、それじゃ、先生にお許しを頂いて、午後はスーの所に行って見る?」
「お?イイねェ!あたしも王都の騎士団を近くで見たかったんだ!よし!行こう行こう!」
「う゛~~~…スーちゃ…ん?え?スーちゃんのトコ行くの?わたしも行く!行くよ!」
「そうね…!スーの陣中見舞いとお手伝いと…!今なら、手はあっても困らないモノね!」
「決まりね!それじゃ私は先生に御許可頂いて来るわね」
「食事が終わったら!直ぐに向かいましょう!」
「おし!へへ、午後が楽しみになって来たな!」
「うん!スーちゃん待っててね!直ぐにダキダキクニュクニュして上げるね!!」
「……アンタ!ホンッットにブレないわよね!」
次回「ソニア・クラウドの憂い事」
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