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Sランクダンジョンを踏破した後、俺は仲間たちと共に王都のパーティハウスへと帰宅した。
騎士の人にもしばらく王都にいると伝えているので、謁見だったり新たな情報が入ってきたら家にやってくるはずだ。俺も急ぐ用事はないので、せいぜい最後の安穏を楽しませてもらうつもりである。
その日の夜、迅雷の軌跡と『これから大変だぞ』、『だよな~』というのほほんとした会話をしていると、慌てた様子でヴィンゼット姉弟が現れた。どこから漏れたのか、早くもSランクダンジョン踏破の噂が王都に広まっており、まさかと思って駆けつけたそうだ。
いや、お前たちにもいずれ踏破するって言ってたじゃん、そんなに慌てるなよ――とは思ったんだが、アーノルドが祝いの酒を持ってきたこともあり、遅い時間からではあるが、静かに身内でパーティが行われた。いつも通り、セラはふらふらになっていた。
そして、それから数日後。
迅雷の軌跡は俺のことでモチベーションが上がっているのか、休むことなくダンジョンに潜ってレベル上げをしている。早く俺に追いつきたい――もしくはこれ以上離されたくないのかは知らないけど、くれぐれも無理はしないようにしてもらいたいものだ。
そして、問題の中心にいる俺はというと、
「なにも情報なし……やっぱりSSランク――覇王城は出てこないのかね」
紅茶を混ぜるために用意されたスプーンを口に咥え、上下に揺らしていた。そんなことをしながらダイニングのテーブルに顎を乗せていたら、向かいに座るセラも同じようなことをやり始めてしまった。とても楽しそうな表情でスプーンを動かしている。
「謁見は明日と言っていましたから、もしかしたらその時に一緒にお伝えするのかもしれませんよ?」
セラの隣に座るフェノンが、ちらりと俺とセラの様子を見てから言う。そして、彼女もスプーンを口に咥え、顎を乗せようとしたところでシリーに注意されていた。
ですよね。お行儀悪いですよね。俺もやめます。
「ですが、民衆の間でもそういった噂はないようですよ。新たにダンジョンができたのなら、隠すことも難しいでしょうし、どこからか聞こえてきそうなものです」
「だねぇ。お兄ちゃんはつまらないかもしれないけど、仕方ないよ」
「む……、まだそうと決まったわけじゃないだろ。国境付近に出現するとしたら、捜索と移動に時間がかかるはずだし」
「各街にも探すよう命じているみたいだし、通信の魔道具もあるんだよ? 隠し通せるような場所に出現しているなら情報が出回っていなくとも不思議はないけど、ダンジョンが出現したら絶対に誰かの目に留まる。人の口に戸は立てられないから、やっぱり何もないんじゃないかな?」
「うっすら気付いていたけどさ! 正論ぶつけるのはやめてくれ! 希望を持たせてくれよ!」
「だ、大丈夫だエスアール! 建物の中にダンジョンができているかもしれないぞっ! それならば誰の目に留まっていなくとも不思議はない!」
「はは……それは随分とコンパクトなダンジョンだなぁ」
フォローになっているのかよくわからないセラの言葉に苦笑して、俺は椅子にぐったりと背を預けた。
もしこのまま何も現れなかったとしたら、消化不良にもほどがあるんだが。せっかく剣聖の武の極致まで取得したのにな……。
例えるならば、魔王を守る四天王を倒したら、そのままゲームクリアになってしまったような感じ。え、ボスは? 中ボスで終わり? みたいな。
そんな感じで俺はSランクダンジョンを踏破してからというもの、日を追うごとにテンションが際限なく下がっていくのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして、謁見当日。
フェノンは俺よりも先に第一王女として、そして専属のメイドであるシリーも一緒に王城へと向かっていた。
そして当人の俺は、護衛役として共に行くセラとノアと一緒に、王城からやってきた豪奢な馬車に揺られ王都の街を進んでいた。馬車の周りには護衛の騎士も複数人ついているし、対応もびっくりするほど丁寧。これまで以上に俺が重要人物に認定されていることが窺えるような待遇だった。
そんな俺たちが向かっている場所だが、なぜか王城ではなく、武闘大会などが開催される闘技場である。その理由なのだが、登城する前に確認してもらいたいものがあるとのこと。
もしかして闘技場の中にダンジョンが――!? とも思ったが、どうやらそうではないらしい。
馬車から降りて闘技場の中に向かって歩いていると、セラが思案する顎に手を当てる。
「それにしても闘技場に結界が張られているとは……いったいどういうことなんだろうな」
そう。今回俺たちが闘技場に呼び出されたのは、突如として闘技場のステージを覆うように現れた結界の確認だった。
「ちょうどお兄ちゃんがSランクダンジョンを踏破したころに現れたと言っていたから、無関係じゃなさそうだけど……わからないね」
「俺が行って何かわかるとは思えないがなぁ」
ぶつぶつと言いながらも、内心は非日常的で少し楽しみである。この世界自体、俺にとっては非日常なんですけどね!
案内され、闘技場の中心にあるステージに近づくと、確かに先ほど騎士から聞いた通り舞台が虹色の薄い膜で覆われていることがわかる。シャボン玉の膜のように透けて見えているが、舞台の上には何もない。
「我々ではどうすることもできず、Sランクダンジョンを踏破したエスアール様ならば何か変化が起こるかもしれない……ということでお連れいたしました。できれば謁見時に、その話もしていただきたいので」
姿勢を正した騎士が、不甲斐なさそうに眉をハの字に曲げて言う。
「と、言われましても……」
俺もこんな現象、知らないんだけどなぁ。
頭を掻きながら、結界に触れるべくステージへと近づいていく。手を伸ばして、虹色の壁に触れようとしたところで、「あっ」という聞き慣れたセラの声が背後から聞こえてきた。
なんだろうか――と思いつつ、後ろを振り向く。すると、セラは口をパクパクと動かしながら闘技場に人差し指を向けていた。
「何か出たの――」
――か。という最後の一文字を俺は紡ぐことができず、その光景を見て俺は不覚にも固まってしまった。
俺の正面――闘技場の上には、いつの間にか五人の黒いシルエットが浮かび上がっている。
いや、その表現は少し違うか。足の爪先から頭のてっぺん、武器や衣服にいたるまで真っ黒の人間が五人、闘技場の上に並んで立っているのだ。
「……おい、おいおいおい」
思わず一歩あとずさりながら、うわ言のように言葉を漏らした。冷汗が頬を伝い、口角は上がる。
驚いたのはどこぞの犯人のような見た目だからではない。
お化けだと思ったわけでもない。
得体のしれないモノに怯えたわけでもない。
たとえ相手の顔が見えなくとも、たとえ全身が黒かろうと、身に着けている武器や防具の形――体格などで理解してしまったのだ。
「――これは、ちょっとやばいかもしれん」
この俺が見間違うことはない、あいつらは――テンペストのパーティ戦における不動のランキング一位、『月』のパーティだ。