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君たちASRに仕事を依頼したい。
隣町のギルドマスターであるライレスさんは俺たち5人に向けてそう言った。だが、主に彼の視線はセラやフェノンがいる方向に向けられている。決定権を持っているのはこの二人だと思っているのだろう。
こういう時に蚊帳の外に居られるってのは実に楽でいい。他人事ってわけじゃないから、逃げるわけにもいかないけれど。
俺もノアの読心術を利用して、口を開かずして会話に参加。
ご丁寧にクソガキは俺の『えー、面倒くさいなぁ』や『まだ祭りを楽しみきってない』などの言葉も拾ってしまい、空気を凍り付かせてしまう場面もあったが、なんとか穏便に話を終えることができた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「スリのグループ犯か……確かにこれだけ人が多いと、人にぶつかってもあまり気にならないからな」
セラは俺の隣を歩きながら顎に手を当てて目を閉じ、眉間にしわを寄せている。歩きながら目を閉じるなバカ。
「私たちはケンカの鎮静化を頼まれましたけど、窃盗にも目を光らせておくべきですよね」
そう口にするシリーの表情は、いつになく真面目なモノだ。セラと同じく、正義感の強い彼女らしい。
ライレスさんが言うには、どうやら現在王都ではスリによる被害が多発しているらしい。
その発生件数は式典が近づくにつれ――つまり王都に人が集まるにつれて増加していき、昨日は百件以上の被害報告があったようだ。
話の流れから、犯人探しを手伝ってくれ――ということかと思ったのだが、「君たちみたいな実力者にそんなことはさせられないよ」とライレスさん。
俺たちは祭りを楽しみながら、暴れている人がいたら取り押さえるだけでいいとのことだった。
簡単に言うと騎士団のお手伝いって感じだな。
「もともと周辺警戒はしていたんだし、仕事を依頼されたけどあまりやることは変わらないよな」
ライレスさんから頼まれていなかったとしても、ひどいケンカが起きていたら仲裁ぐらいはしていただろうし。俺が見て見ぬふりをしたとしても、セラなんかは特攻しそうだ。
「でもこの街中に犯罪者がたくさんいるとなると――少し落ち着かないですね。皆も不安になっているでしょうし、早く捕まるといいのですが」
浮かない表情で辺りを見渡すフェノン。
彼女の場合、今は主に探索者として活動しているとはいえ、王族という立場もあるから責任を感じてしまっているのかもしれない。
「……ふむ」
確かに落ち着かない、よな。
早急に解決するためには――大人しくライレスさんの指示に従うべきではないだろう。勝手に動く必要がある。
「このままだと、存分に祭りを楽しめないよね?」
ニヤニヤと、俺の顔を見上げながらノアが言う。
考えるまでもなく、今のこいつは俺の思考を読んでいる。だからこんな悪ガキみたいな「悪ガキじゃないもん!」――顔つきをしているのだろう。
「はいはいわかったよノア様。わかったからキリキリ働け」
「相変わらずお兄ちゃんは人使いが荒いなぁ」
「お前、人じゃないだろ?」
「人だよ! 少なくとも今は完全に君たちと同じだもん」
「人とクソガキのハーフってところか」
「もう……お兄ちゃんのバカ」
ムスッとした表情を浮かべるノアの頭をぽんぽんと軽く手で叩く。
すると彼女はみるみるうちに大人しくなり、鼻より上は不満顔なのに口元は笑っているという奇妙な表情になっていた。次に頭を撫でてみると、今度は拗ねたような表情になりつつ、顔が赤くなっていく。
実に面白い――が、とりあえず仕事を終わらせるとしようか。ライレスさんから頼まれた仕事とは違うけれど。
「あとで屋台でなんでも買ってやるから、よろしく頼むぞ」
「まったく……しょうがないなぁ」
言葉では面倒くさそうに、だが声色は少し嬉しそうにしながら、ノアは俺たちを率いて先頭を歩き始めた。
小さい背中だが、さすが元神様だけあって頼りがいのある後姿である。
俺も彼女に続いて足を進めようとしたが、後ろから服の裾を掴まれてしまう。振り向くと、六つの非難がましい目がこちらを向いていた。
「エスアールたちは何の話をしていたんだ?」
「まっっっっったく、わかりませんでした。説明してくださいますよね?」
「イチャイチャしているのだけはわかりましたけど」
セラ、フェノン、シリーの順番で、俺に向かって圧の込められた言葉を吐く。
なんとなく、重力魔法をくらったときのように身体の動きを制限されたような気がした。みんな魔王なの?
「わ、わるい。つい癖で」
ノアは勝手に俺の心を読むから、俺が口にするまでもなく会話が成立してしまっていることが多々ある。
周囲の人間からしてみれば、なんの会話なのかさっぱりわからないだろう。
それは目立ちたくない俺からすればメリットなのだが、仲間からすればあまりよろしくないよな……作戦、共有できないし。
「お兄ちゃん、あそこの青のズボンに白いシャツの人で、肩掛けの黒いバッグを持っている人だよ」
三人に説明しようとしたところで、ノアが俺のすぐ側にまでちょこちょこと駆け寄ってきた。どうやらさっそくアタリを引いてくれたらしい。
「ちゃんと説明するから、少し待っててくれ」
セラたちにそう言いつつ、俺はインベントリから木刀を取り出し、そしてすぐにまたインベントリにしまった。一秒に満たないほどの、一瞬の出来事である。
剣聖の『壊理剣』――街中で使うとマジで反則だよなぁ。
俺の視線の先では、先程ノアが教えてくれた白いシャツの男が腹を押さえて、膝から崩れ落ちた。
木刀――しかもかなり手加減したとはいえ、俺のSTRで斬ればそう簡単には立ち上がれないだろう。あばら骨が何本か折れていても不思議はない。
男の周囲には、少し距離をとって人だかりができている。いきなり人が倒れたのだからそりゃ驚きもするだろう。
「なんだ? 今のはエスアールがやったのか?」
「ケンカをしている様子はなかったですけど……」
俺がきちんと説明していなかったが為に、彼女たちはぽかんとした表情を浮かべてしまっている。可愛い。
「せっかくのお祭りなんだし、やっぱり思いっきり楽しみたいだろ? さっきフェノンが言ったように、俺も犯罪者がうろつく街だと落ち着かない」
そりゃケンカぐらいは起きるだろうけど、それはどこの祭りでもあるようなことだ。だが、窃盗は違う。
倒れた男に近づき、声を掛けているノアを横目で見ながら俺は三人に説明を続ける。
「さっきライレスさんが『グループでの犯行』って言ってただろ? だから一人捕まえて、尋問して、組織ごと潰してしまおうってことだ」
そうすれば、通常業務であるケンカの仲裁は騎士団がすることになり、晴れて俺たちはお役御免になるわけだ。
存分に祭りを楽しめるし、落ち着いてシンたちのパレードも見ることができる。
「でも、騎士団が尋問ぐらいはしていると思いますけど……」
「スリ程度だと、あまり強く尋問はできないのかもしれんな。殺人ならば、殺す一歩手前ぐらいはやるだろうが――まさかエスアール、騎士団が生ぬるいからと言って、半殺しにしてポーションを浴びせ、また半殺しに……生死の境をさ迷わせ続けるつもり――」
「そんなことするかバカ! さすがに可哀想だわ!」
「じ、冗談だ! あは、はははははっ」
絶対冗談で言ってなかっただろセラ。怖いよ。
「そんなことしなくても、俺たちにはノアがいるだろ」
尋問も、脅迫も、体罰も必要ない。
俺たちには読心術の使えるクソガキが「クソガキじゃない!」――元神様がついているからな。
「質問するだけで、答えは返ってくるさ」