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「……『鑑定』」
―――
対象:幻影人形
効果:異能によって疑似人格を与えられて生み出された人形。
対象は発動者に付与された異能を任意で発動することが出来る。
また機体を改造することで様々な拡張機能を付与することが可能。
状態:活動不能
補足:全身を凍結され、各種機能を損傷している。また当該機体は外見内見共に人間を精巧に模倣している。
付与された疑似人格と外見は温和な少女をモデルにしており、【生命力向上】【物体吸収】【魅了】【認識阻害】【スキル耐性】の異能を与えられていた。
補足:発動者は■■■■■。
―――
ここまで無力化したのだから、もしかしたら『鑑定』に対する耐性も消えているかもしれない。
そう考えてダメ元でスキルを発動してみたのだが、思惑通り謎の耐性は消失してくれたらしい。
『鑑定』したことで分かったことは茨の人形発言は事実だったということ、そして彼女を作り上げた正体不明の人物は俺の知らないスキルないし異能を所持しているということ、この2つだけだ。
(とりあえずこれを解析して出来るだけ情報を抜き取るしかないか……)
「伊織君!」
茨だった物を前に今後のことを考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
見るとそこにはドローンを連れてこちらに走ってくる京里の姿があった。
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫ですか!? どこか怪我したりしていませんか!?」
「あー、全然平気。そっちは? 何かヤバい攻撃とか食らったりしてないか?」
「私は大丈夫です。この子が守ってくれたので……」
そう言って京里は半壊しているが何とか浮遊している状態のドローンを優しく撫でる。
確かに彼女の体は傷一つ付いてない。
どうやら設計通り京里を守りきったようだ。
「あっ、すみません! この子を壊してしまいまして……」
「気にしなくていいよ。道具は人間のためにあるものなんだから。それにその程度の損傷ならすぐに直せるから」
「……ありがとうございます」
さあ、これで「お互いの無事を確認できて一安心」という状況なのだが、京里はどうも落ち着かない様子でいる。
まあ、十中八九この物言わぬ氷像と化しているものが原因なのだろうが。
「あの、そこで氷漬けになっているのは……」
流石にこれを無視しておくことは出来なかったのか、京里は恐る恐る尋ねてくる。
「敵」の素性もまだ明らかになっていない状況で素直に答えるべきなのだろうかと俊巡するが、氷漬けになっている人のようなものを前に変に誤魔化したりする方が不安を煽ることになるかもしれない。
よし、ここは正直に答えるとしよう。
そう考えた俺はさりげない口調でこう告げた。
「茨を名乗っていた人形。人間でも妖怪でもない、ただの道具」
「人形、ですか?」
「ああ。多分式神とかと似たようなものなんだと思うけど、誰が作ったのか、どういう原理で動いてたのかは詳しく調べてみないことには何とも。とりあえずまた動いて悪さすることはないと思う」
「そうですか……」
「目の前で凍り付いている存在は人間ではない」ということを知れたことへの安堵と、黒幕だと思っていた存在が実際には実行犯に過ぎなかったということへの不安、それらが入り混じった表情を浮かべながら京里は氷像を眺める。
「ま、これで脱出のための障害は全て排除できたってわけだ。小難しいことは外で考えようぜ」
「……ですよね。私もそうすることにします」
「それがいいよ。じゃ、さっさとここから出るとしようか」
「はい!」
さて、この迷宮から出るには脱出地点とやらにあるという操作盤の元へ向かう必要があるのだが……。
「確認しておきたいんだけど京里はどこから脱出できるか知ってるか?」
「確か最後の階層に脱出のための術式が置かれていると聞いています」
「術式ね。りょーかい」
これまでの階層の傾向から考えるに、恐らくその術式とやらは何らかの方法によって隠されているだろう。
バカ正直にギミックを解いたり歩いて探す気力はもうない。
だったら取るべき手段はこれだ。
(『水魔法』)
スキルを発動して無数の水で構成された目玉を生成すると、それを階層の全域をカバーできるように展開させる。
あの水の目は『感覚共有』で俺の視界と接続しており、またこれを介して遠隔でスキルを発動することも出来るというもの。
要は久遠家の屋敷に送った水人形の劣化版なのだが、敵のいないこの状況であればこれで十分だろう。
後はこれでこの階層全体を隅々まで自動的に『鑑定』し、目的の物を見つけたという反応が出たらその場所へ向かうだけだ。
「今のは?」
「さっき言ってた術式を探すための探査機? みたいなもの。見つけたらその場所を知らせるようにしてあるから俺たちはここで大人しく待ってようぜ」
「わ、わかりました」
と、話している間にも術式を発見したとの反応が来る。
さあて、脱出のための鍵はどこにあったのか―――。
「……うーわ、マジかよ」
「どうしたんですか? まさか、まだ敵が……!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
反応があった場所を見て頭をかきながら俺は京里を見る。
「とりあえず小春たちの所に戻ろう。話はそれからだ」
「?」
◇◇◇
「京里姉さま!」
「こ、小春ちゃん……、苦しいよ……」
劇場の舞台裏のような場所に戻るや否や、小春は物凄い勢いで京里に抱きつく。
「よかった……、大変なことになってなくて本当によかったよぉ……」
「……うん、ごめんね。心配かけちゃって」
無事を確認できたことで緊張の糸が切れたのか、小春の目から大粒の涙が溢れ、京里はそんな彼女の頭を撫でながらあやしている。
……今は二人きりにさせた方が良さそうだな。
そう考えて1人でこの迷宮の操作盤となっている術式に向かおうとした、その時。
「あの、玄治様はどうなりましたか……?」
あの姉弟が不安げな様子でそう俺に尋ねてきた。
久遠玄治、あの男の様子はここへ戻ってくる際に改めて確認はしてある。
ただ一応久遠玄治を慕っていて、またあの男を次期当主に強く推している家の子供に対してどう答えるのが正解なのだろうか。
「今は意識を失ってるけど、一応無事だよ」
少し悩んだ末にそう答えると、姉弟はホッと安堵のため息をつく。
嘘は言っていない。久遠玄治は意識は失ってはいるが、それ以外の外傷は全て『治癒魔法』で治療済みだから命を落とすことはないだろう。
問題は目覚めた後、あの男がどういった行動を取るかだ。
意識を失う直前の廃人状態のままか、もしくは逆上して襲いかかってくるか。
一応後者の場合に備えて保険はかけておいたが……。
と、久遠玄治についてあれこれ考えるのは後だ。
「他に聞きたいことは?」
「……今はありません。すみません、時間を取らせて」
「いいよいいよ、気にしなくて」
そう言って姉弟と離れた俺はようやく目的の操作盤の元へと向かう。
(まさか入り口のすぐ近くに置いてあるとはな……。これ設計した奴、絶対性格悪いわ)
一見するとこの舞台裏じみたフロアと同じく背景として見逃してしまいそうな舞台装置。
それに向けて『ディスペル』を発動すると、まるでシールが剥がれるように舞台装置が消失し、空中に浮かび光り輝く五芒星が代わりに現れた。
(『鑑定』)
――――
対象:妖魔幽閉用階層型結界術操作盤
効果:久遠家の人間が直接接触することで効果が発動し、結界内にいる全ての人間を自動的に外部へと退出させる。
また平時は特殊なテクスチャを展開し、操作盤が妖魔などに発見されないように隠蔽されている。
状態:正常に稼働中。
補足:
―――――
念のために『鑑定』で確認してみたが、やはりこれで間違いないな。
しかし「久遠家の人間限定」で効力を発揮する代物か……。
「京里、こっちに来てくれないか?」
「……? わかりました」
ちょうど小春を宥め終えた京里を呼び寄せると、そのまま操作盤の元へ案内する。
「多分これが脱出のための術式だと思うんだけど……」
「間違いありません。事前に聞かされていたのと同じものです」
「なら良かった。でだ。これ、久遠の人しか動かせないみたいなんだけど、頼めるか?」
「……分かりました」
俺の問いに京里は何か大きな決心をするかのように深呼吸すると、宙に浮かぶ五芒星へと手を伸ばす。
「いきます……!」
そして五芒星に彼女の手が触れた瞬間、光の奔流が俺の視界を埋め尽くしていき、そして――――。