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―――side???
「おい! 大丈夫なんだろうな!? 本当にお前たちがオレの身を守ってくれるんだろうな!?」
「ええ、ご心配なく。貴方様に危害を加える者は全て私共が排除いたしますので、岡島様はどうか安心してご自身の作業に集中なさってください」
夕暮れ時の薄暗い森の中、20代半ばと思わしき岡島という青年は焦った様子でアロハシャツを着た男に詰め寄る。
その青年の腕には相当古く地中に埋められていたのであろう錆び付いた刀が抱えられていた。
「本当にこいつの封印とやらを解けば、オレは億万長者になれるんだよな?」
「ええ、それはもちろん。その刀は異常物愛好家では非常に価値の高い代物ですので」
「……その異常物の話ってマジなのか? 爺さんは金儲けの時には使っていたらしいが、いまいち信じられないっていうか……」
「おや、まだ信用していただけませんでしたか。それでしたら……」
岡島の言葉を聞いて、アロハシャツの男は柔和な笑みを浮かべたまま手のひらに青い炎を出現させる。
「い、いや! 信じる! 信じるよ! だから早くそれを引っ込めてくれ!」
「信じていただけたようで何よりです。では作業を再開してください」
「わ、わかったよ……」
岡島は不安げにそう呟くと、刀に貼りつけられた無数の札を剥がし始める。
そんな岡島を冷ややかな目で一瞥すると、アロハシャツの男はトレーニングスーツを着て顎ひげを生やした“ビジネスパートナー”の元へと向かう。
「ご苦労様です。それで罠の方はどうですか?」
「……能力持ちが2人、この『迷い路』に迷い込んだ。主流派が送り込んだ精鋭か、哀れにも罠を踏んでしまった被害者かは分からんがな」
「どちらにしても僕たちがやることは変わりませんよ」
そう話すアロハシャツの男の顔には不穏な笑みが浮かんでいた。
「……しかし本当にあの男が必要なのか? あれはどう見ても能力も才能もないただの落伍者じゃないか」
「大昔この地を暴れ散らしたあの妖刀を鎮めた退魔士は相当用心深い方でしてね。万が一の可能性を考慮して関係者でなければ札に触れられないようにされているんですよ」
「……つまり封印が解けるまでの間は奴の手下でいろってことか」
顎ひげを生やした若い男は見るからに心の底から不愉快そうに吐き捨てる。
「若旦那の気持ちは痛いほど分かりますが、どうかここは怒りを抑えてください。この件を解決できれば若旦那の家、久居家の復興は叶ったようなものなんですから」
「ちっ、分かったよ。カイ」
アロハシャツを着た男に宥められると、顎ひげを生やした男――久居は意識を先祖伝来の秘術【迷い路】へと向け直す。
(全く、仲介業も楽じゃないな)
それらを見届けると、アロハシャツの男――カイは木陰にあった大きな岩に腰かけ、ライターで紙タバコに火をつけると一服する。
一方はオンラインカジノで財産を全て溶かし、家の伝承と古い伝手を頼りに泣きついてきた旧家の落伍者。
もう一方はかつては異能社会では知らぬ者はいないとまで云われた名門だったが、不正に手を出して異能社会から追放された退魔士の末裔。
前者は短絡思考の浪費家、後者は身の丈に合わないプライドを後生大事に抱え込んでおり、互いに衝突を繰り返してはカイに不満や愚痴をぶちまけていた。
(だけどそれも今日で終わりだ)
カイはタバコの吸殻を靴で踏みしめると、胸ポケットからまた新しくタバコを取り出す。
岡島が持ってきたもの、それはこの国の殆どの退魔士が知らなかった妖刀の情報だった。
カイと名乗っているこの男が所属する組織は異常物品や妖怪や怪物などの怪魔を商品とし、世界中の異常物愛好家に売りつけることを生業にしている。
しかし今や怪魔は減少傾向にあり、異常物も国の管理下へ移されてしまい市場に放出される物も少なくなって久しい。
今では本物を偽った模造品が出回る始末で、カイ自身もそういった物を目利きがなく小金だけ持っている三流の異常物愛好家に売り飛ばして小遣い稼ぎをしたこともあった。
しかしそれで得られる利益は微々たるもので、組織は一流の愛好家に好まれる代物を求めていたのだ。
そんな中でカイの耳に飛び込んできたのが、岡島が持ってきた「誰の管理下にも置かれていない妖刀」の情報だった。
岡島家が口伝で代々継承してきたという歴史、そして地元にのみ伝わる逸話。それらから判断して【本物】である可能性は限りなく高い。
一方で伝承通り【本物】の妖刀であるならそれなりの準備が必要となる。
カイは所属する組織で簡単な退魔術を叩き込まれてはいるが、本職のそれと比べたらあまりにも心許ないものだ。
そこで彼が目をつけたのが、没落してから日が浅く、組織との交流があり、そして異能社会への復帰を求めている久居と、彼が持つ秘術『迷い路』だった。
(封印を解いたら妖刀は久居に抑えさせて、岡島は現場で始末。あとは適当な頃合いを見て組織の増援と共に久居を排除して妖刀をかっさらう)
カイは頭の中で改めて自分が建てた計画を再確認する。
『迷い路』内部の時間の流れは外界の100分の1、封印解除に多少手こずったとしても問題ないだろう。
――自分たちが立てた計画に狂いはない、そう確信しながらカイがもう1本のタバコに火をつけようとしたまさにその時。
(……鳥?)
空を見上げると鳥と思わしき影が視界を横切る。
普通の山の中であれば鳥が飛んでいることに何の疑問も抱かないだろう。
しかしここは異能を持たない者は排除し、異能を持つ者を永遠に迷わせる結界の中。
そしてそれは動物にも適用されている。
「ひいっ!?」
突如、岡島が悲鳴を上げる。
カイが声の主へと視線を向けると、そこには大柄な熊が唸り声を上げて岡島を睨んでいた。
「……なあ、若旦那。この結界は動物にも適用されるんだよな?」
「ああ、そうだよ! クソ、なんでこんなことに……!」
久居が声を荒らげながら懐から札を取り出したタイミングでカイは気づく。
(ははは、楽な話だと思ったんだけどな)
自分たちが無数の動物と思わしき何かに囲まれるという絶望的な状況に置かれてしまったということに。